夏休みに森歩きをしたい方もいらっしゃるでしょうが、突哨山の遊歩道はヒグマの出現が続いているため残念ながら閉鎖解除の見通しが立っていません。
突哨山の公園区域には、5月1日に小型のヒグマが北部の高速道路を越えて侵入し、姿や足跡が確認されたため、全山の遊歩道が閉鎖となりました。
その後も、7月中旬にぴぴの路入り口で、アリの巣となった枯れ木をひっくり返してアリを食べたり、8月4日にカタクリルート上を横断する姿が自動カメラに写るなど、公園区域内で小型と中型の2頭の行動が確認されています。
今のところクマは人間を避けており、フンからも人為的な食べ物は出ていないので、攻撃的で危険なヒグマではないと考えられます。しかし、だれでも気軽に歩ける「公園」(都市緑地)という突哨山の性格から、旭川市では通行止め解除は当分できないと判断しています。
公園内では旭川市と「もりねっと」が合同で痕跡調査や自動カメラの確認などを行っています。巡回では、足跡、フン、食痕などがないか見回り、自動カメラの電池や記録メディアを確認、交換します。
歩道上のところどころでは、持参したクワで土を掘り起こし、クマの足跡が残るようにもしています。原始的な方法ですが、数多く設定できるので意外に有効なのです。
カタクリ広場の歩道入り口に、ビールの空き缶が落ちていました。長年、突哨山を歩いていますが、「生ゴミ」に相当する物は初めてです。普段ほとんどゴミらしいものはなく、あってもアメの包み紙程度でした。
おいしい匂いのする空き缶などの生ゴミ類は、ヒグマを呼び寄せ、悪くすると人間に近づく習性を教えてしまいます。野山のゴミ捨ては、誰かの命にかかわりかねない、大きな問題なのです。
最近、銃声がするとハンターに近づいてくるヒグマが増えているそうです。なぜだかおわかりですか?
今どきのハンターの多くは、シカ猟がメインです。ヒグマを追う「クマ撃ち」はめっきり減りました。ヒグマにとっては、銃声は身の危険ではなく、シカを解体した後のおこぼれにありつける「おいしい音」なのです。
明治以降、ヒグマは銃に追われる生活をして、銃声や火薬の匂いを避けると言われてきました。そんな常識をひっくり返し、時代の変化、人間の変化に軽々と順応して行動を変えていく学習能力を持った生き物がヒグマです。
では、鈴の音はどうでしょう。「鈴を鳴らすとクマが寄ってくるんじゃない?」と最近よく聞かれます。銃声に寄ってくるくらいなら、鈴の音だって…。
誰かがそんないい加減な類推を言ったのでしょうか。今のところ、鈴の音にヒグマが近寄るという話は聞いていません。
考えてみましょう。
今どきの銃声は、(命中すれば)解体されたシカがあることを知らせます。
鈴の音はクマにとって何かいいことがあるでしょうか。人間を食べ物と見なすヒグマは普通はいないので、鈴の音は単に「邪魔な二本足の動物がやってくる」という知らせです。特に興奮していないクマは、トラブルを避けて身を隠します。時にはほんの数メートルだけ離れたヤブに潜むこともあります。
最近の登山者や釣り人はマナーが良く、ほとんど生ゴミを残さないので、ヒグマにとっては「近寄る価値はない」存在です。多くの人が、何十年もかけてそういう環境を作ってきました。
ただこれが、お弁当を埋めたり、ビールの空き缶を捨てていくと話が変わります。ヒグマが「鈴の音がうまい物を運んでくる」と学習したら…。とんでもないことになりますね。
野生動物との距離感、緊張感は野山を歩く一人一人が築いているのです。(山本牧)
写真説明
1.ぴぴの路で、歩道沿いの丸太をヒグマが転がした痕跡。ヒグマはアリの巣を壊し、成虫や幼虫を好んで食べます。栄養があるのか、食感がいいのか? |
2.カタクリ広場の歩道入り口に落ちていたビール空き缶。おいしい匂いをクマが学習すると大変なことに… |
3.自動撮影カメラに写ったアライグマとエゾシカ。夜間は赤外線撮影になるので、モノクロ画像になります |
4.突哨山付近に落ちていたヒグマのフン。植物のタネがたくさん入っています |